LUCID NOTE LUCID NOTE | what Shibuya living in SHIBUYA have seen and felt

つむぎの夜~其の七~

LUCID NOTE SHIBUYA

黙らせたのはまきのうた。

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久しぶりに月見ルへ。前回は大雪。今回は秋雨。なるべく月の見える夜に来たい。南青山4丁目。

とにかく彼はよくしゃべる男だった。感動を言葉に変換し、話し声として発するのが彼のミッションだ。彼の連れの男も、自称出演者の幼馴染みの子女も、彼との距離感を探りながらも、その会話に乗るしかなかった。開演前ならまだしも、開演してからも、その男は自分のミッションをやりとげようとした。すくなくとも矢野さんの最初の数曲までは、曲中、曲間、ところかわまず、彼は感動をノイズにし、避けることのできない煙草のけむりのように口から吐き出していた。おかげで彼らの周囲数席を含む客席の空気はすっかり壊れかけていた。

そんな客席後方の空気をすっきりと引き締め、さらにステージへと引き寄せたのが、矢野さんの「言葉にできない」。チカラでねじ伏せ、コトバで説き伏せ、ナミダで訴える。彼女はいろんな方法を常に懐に隠し持ち、いつだって全力でうたう。結果、彼はミッションに失敗した。

松本さんも空気を大切にするヴォーカリストだった。月見ルのステージセットの空気感に合わせて構成されたプログラムは、それだけでライブの成功を約束していた。前説もなく唐突に歌い始めた聴き馴染みのない楽曲は、レコーディング途中の新曲。うたうことに全力なのは、松本さんだって同じだ。おそらくこれが今日のイベントの最大の見せ場。新曲を初めて聴いた場所が、テレビ、ラジオ、ネットのようなメディアではなく、ライブ会場だった場合、そしてそれが紛れもなく心に響いた曲だった場合、間違いなく、一生、その歌は忘れられない。

LUCID NOTE SHIBUYA

彼は、最後の最後に再び自分の仕事を思い出した。楽屋まで届いたあの雄たけびは、彼の声だ。彼はミッションに成功した。