背すじのびる。
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きょうは三年ぶりに夜桜能へ。第一夜、初日。九段北3丁目。
夜桜能は、仕舞、狂言、能の三部構成。相変わらずセリフも歌詞も聞き取れないおかげで、耳はもっぱら音楽におのずと集中してしまう。仕舞と能には「地揺」と呼ばれるコーラス隊がいるのだが、ビートもキー音もないなかで、ぜんいんが正しく乱れずユニゾンでうたう。能では「大鼓」と「小鼓」の放つリズムとはまったく違うリズムで八人がいっせいにうたう。歌い始めのタイミングもナゾにぴたりと合っていて、いったいだれがカウントして、だれが拍を取っているのか、音楽好きにはたまらない不思議な光景がひろがる世界。
能の主役(シテ)が衣装を替えるシーンでは、着替えが整うまでは鼓と笛がその間を持たせる演奏をするのだが、なんとそれがアドリブな演奏。着替えは舞台の最奥で行われていて、鼓と笛にはその様子を見ることができない(客にはその様子のすべてが見えている)。シテが強く一回、足で舞台を強くドンっと踏みならすと着替えが終わったという合図。鼓と笛はすかさずアドリブを終えて、場のイメージを一気に変化させるアンサンブルへ。このアナログなコンビネーション。コロガシもイヤモニもない舞台。いまの時代においては、景色を楽しむにはぜんぶがスローモーションで無駄に長く感じるけれど、音響を楽しむには不思議な術がたくさんつまった魅惑の舞台。楽譜ってあるのかな。バンマスはだれだったんだろう。あの笛もナゾのひとつ。七十一歳であの肺活量。もはやモンスター。
萬斎さんのボケ、今回も冴えてた。