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川江美奈子 Birthday Special Live ~Pop Up Night~

LUCID NOTE SHIBUYA

大事なことは二度書く。

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ぴったり一年ぶりの川江さんのバースデイライブへ。セルリアン。

今年はバンドでやると知ったとき、予報になかった雨をふいに頬に感じたときのような小さな動揺を感じた。今年もファーストとセカンドのフルセットで挑んだのは、弾き語りではない川江さんのサウンドを上手に聴く方法を、単セットだけでマスターする自信がなかったからだ。案の定、ファーストセットはずっとうろたえていた。ピアノはピアノ、ギターはギター、アコーディオンはアコーディン、楽器の音を個々にばらばらに聴いてしまう癖は、初めて聴くバンドのときはなおさらに発揮される悪しき習慣だ。したがって、歌詞はほとんど聴き取れない。ヴォーカルの声は音として耳を通過する。パーカッションにいたっては、コンガはコンガ、シンバルはシンバル、カフォンはカフォン、シャンベはシャンベ、たくさんの楽器の音をひとつひとつ興味深く、別々に聴いてしまう。それにしても山田さんのリズム感はユニークだ。ツリーチャイムのキメのタイミングがまったく予想を超えていた。

そんな悪い癖をみごとにとっぱらってくれたのが、セカンドセットの川江さんだった。そのキーワードをバンドに対して使うヴォーカリストを他に知らない。彼女のトークは、訥々とした口調のときこそが本物で、それはいつも正しく心と脳に作用する。アンサンブルかあ。その通りに耳を機能させるのはまったく簡単だ。いつもどおりに聴けばいい。しかもファーストセットを体験した以上、彼らはすでに初めて聴くバンドじゃない。お楽しみはこれからだ。

期待していた以上に知らない曲がたくさんセットされていた。初めて聴く曲は、制作された時期に関係なく、それはリスナーにとっては新曲だ。この一年、まったく音沙汰がなかったわけではないけれど、本人名義のライブは一度もなかったし、新譜のリリースもなかったなかで、隠し持っていたものをここぞとばかりに、なにごともなかったかのように平然と、一年分の秘曲をどっさりと聴かせてくれた。しかもバンドアレンジという贅沢なデコレーション付きで。これは近いうちにまたやらないと、今日来れなかったファンは黙ってないだろうな。

アンサンブルで聴くバンドの音は、機材のセット方法を工夫した結果なのか、実に生々しかった。ダイレクトに荒く、演奏者の習慣的な行動をそのままアンプに通したような音。全体のバランスは偏ったり沈んだり広がったりと不安定だったけれど、本編最後の「relationship」では、そのアンバランスな音作りの理由が、ほんの少し見えた気がした。巨大な躯体に多種多様な人種と仲間を乗せた客船が、晴れてはいるけれど少しだけ波の高い海原に、控えめに静かな低いエンジン音ととも、不安げに大きく左右に揺れながら、確実にゆっくりと重たく岸壁から離れるときのような、そんなアレンジ。今まで何度も聴いてきたこの曲でおぼろげに感じていた情景を、しっかりと具体的な絵にして見せてくれた。これは近いうちにまたやらないと、今日聴けなかったファンは黙ってないだろうな。

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松本さんのライブで聴くより先に、川江さんのライブで聴いてしまった「snow」。これは禁じ手。