真っ黒なピアノ椅子を真っ青に塗り替える。
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九年ぶりに村治佳織さんのワンマンへ。赤坂1丁目。
ずっとほったらかしにしてしまった結果、そのあいだに彼女が挑んできた作品、演奏スタイルの変化、音楽家としての動向、人としての成長っぷりなど、ライブを楽しむため事前の知識に九年分の欠損ができあがっていた。一曲ずつ、曲紹介のMCを挟み込んだ丁寧なプログラム進行が、そのブランクの大きさを改めて気づかせてくれた。一方で、その穴を少しずつ埋めてもくれた。うれしい半面、追いつくのに頭を使う。丁寧なその心意気は演奏にも現れていて、演者の自由度を自ら狭め、鋳型から飛び出さないように慎重に音を弾きだす演奏スタイルは、以前よりもパワーアップしていた。
彼女のライブでは、頭で考えながら音を聴いてしまう。リズムを刻むとか、グルーブに乗るとか、にんまりしたり、ぐっときたりといった衝動や感情を、ほどんど実感できない。彼女にしたって、楽しそうに弾いてるようには見えないのだが、それは演奏そのものが作曲者に忖度しているからなのか。作曲者が書いた譜面から、その意図や意向を読み取って、それを忠実に再現しようとする。たとえそれをリスナーが求めていなくても。したがって、演奏の方法や技術にばかり気を取られて、音そのものを聴けていなかったりする。まあ、それがクラシックなんだと言われるとぐぅの音も出ないけれど。彼女のワナから抜け出す方法はないものか、来年の秋までの課題だな。
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去り際の、アイドルのように客席へ手を振る仕草と、どうすれば客が喜ぶのかを知り尽くしたようなスマイルは健在。さすがだ。