LUCID NOTE LUCID NOTE | Music show reports and Play stage reports

いとうせいこう is the poet featuring Special Live Guest 満島ひかり 1st album『ITP 1』リリースLive – 2nd

LUCID NOTE SHIBUYA

「ガザ、西岸地区、アンマン 「国境なき医師団」を見に行く」を読んだ。

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本年いっぱつ目のライブはブルーノート。南青山6丁目。

いまの音楽業界は観客よりも金を求めている。それにうすうす気付いているかつての観客は、あるものはクラファンに、あるものは配信映像に、あるものは投げ銭に、あるものはグッズに、なんとか業界が持ちこたえるようになけなしのお金を費やしている。いっぽうで、これらの新規のサプライ・ルートには目もくれず、なるべく中抜きされないように直接お店にお金を落とすことで業界を応援しようとするものもいる。昨年なかばあたりから、ブルーノートにお金を落とすように努めているのだが、今夜もその一環。いとうせいこうさんのライブにはまったくといっていいほど関心はなかったし、役を演じているときの満島ひかりさんには歓心こそすれミュージシャンとしての彼女には一度も感心したことがない。ただしお金を費やす以上、なんとかライブまでにモチベーションを高めなければ当日は心の底からは楽しめない。そこでSNSを掘ってみたり、サブスクで既発曲を聞いてみたりしたのだが、結果としてもっとも有効な手段だったのは、いとうさんの新著を手に入れて読むことだった。本店の七階の平台で見かけたその本は、コロナ禍に突入する直前のパレスチナとアンマンのMSFをいとうさんが訪問したときの、いとうさんによる取材記録だった。現場の事実とそれに伴う本人の心象変化をおおよそすこし乱暴な男性口調で書かれていたその本は、いとうさんの本性を垣間見るには絶好のアーティスト・グッズだった。彼はすごい。とてつもなくすごい。ただただすごい。とモチベーションを高めたところでいざブルーノートへ。

ところが、本の主題との関連性をまったく見出せないライブだった。それもそのはず、久しぶりの生のバンドの重低音をひたすら浴びることに終始してしまい、気持ち良すぎて本の内容を思い出すどころじゃなかったのだ。だれかひとりでも禁忌をやぶってイスから立ち上がれば、オースタンディングになること間違いなしの極上のクラブミュージック。深い意味を持たせた言葉をストーリー立ててリズムに合わせるラップは好きになれないけれど、言葉を音として聴けるラップやリーディングならば許容範囲内だ。初めてのいとうさんのライブ、初めての満島さんのヴォーカル。初めてが重複して少し緊張していたのだが、バンドのあの音を目の前で浴びた瞬間に一気に覚醒した。音との一体感に包まれるこの感覚はまさにライブ。そういえば、いとうさんも書いてたな。「一番リラックスしたのは俺だと思われる」。

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ブルーノートへの来月の予定は計三本。ひとつは配信、ふたつが現場。現場のふたつが再び流れないことを祈るのみ。