キミに用はないから、あっちへ行っててくれないかな、クリスマスくん。
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宮﨑さんとキャットさんのツーマン・ツアーの最終日へ。本町1丁目。
壁面には数十本のアコギが整然と吊るされ、フロアにはほんの五十数脚の小さな丸椅子がところ狭く並ぶ。ステージとフロアには段差はなく距離も近い。クリスマスの夜に家族や友人が集まってワイワイざわざわとホームパーティのようなライブ。そんな雰囲気になることをあらかじめ知っていて集まった人たちと、まったく予期せず来てしまった人たちが入り混じっていたから、ぜんいん参加の実現がライブ成功のカギだ。
先攻は宮﨑さん。ウワサどおり、先日のビルボードカフェとほぼ同じセットだったのだが、ところ変わればすべてが変わる。会場は楽器店の販売スペース。ライブで音を聴かせるためのつくりにはけっして見えないし、たとえギターと鍵盤だけの演奏でも音のバランスは絶えず不安定なのだが、ビルボードカフェよりも今日のほうがまったく正しく楽しめた。このツアーで宮﨑さんが用意したセットは、きっとそういう音楽。同じセットでも聴こえかたがまるで違うから不思議だ。クリスマスのマジック。
後攻はキャットさん。先日のビルボードカフェで聴けたのは一曲だけだから、今日が実質の初聴。英語のヒアリングはさっぱりだから、英語のうた声は意味のない音として耳に入ってくる。ライブではその音のトーンやイントネーションを用心深く観察し続けることになるのだが、そのうちフィーリングが徐々につかめてくる歌ごえと、どれだけがんばってもまったくつかめない歌ごえがあって、今日の彼女の歌ごえは前者だった。フィーリングというか、バイブスというか。クリスマスにちなんだキャロルをうたってくれたのだが、彼女がうたうと聖歌も哀歌になるから不思議だ。クリスマスのトリック。
おふたりのステージングには仰々しいエンターテインメントな要素はなく、常にハンドメイド。その手のぬくもりが徐々にステージからフロアに伝搬していくと成功の手ごたえ。キャットさんと宮﨑さんのナチュラルで粋ないざない。あれは天性だな。最後は狭いフロアにぜんいん総立ち。ツアー最終日、大成功だ。
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アーティスト・ラウンジは、テイラー・ギターの販売と修理を専門にした楽器店。すぐに試奏ができるようにするためなのか、ショーケースは使わず、壁にフックをねじ止めし、そこにギターをハダカで吊るしてあった。店内ぜんたいの湿度を常に50パーセントに維持したいのはそのためだそうだ。ギターも生モノ、鮮度がいのち。