集まったのは音楽好きのリスナーばかり。
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おひとりさまが多かったのか、開演前のフロアはやたらと静か。赤坂9丁目。
足元に置いたカンペをチラチラとのぞき見ながら、ファーストステージとは違うセットでやるよ、とおどけながら始まったニック・ロウさんの東京公演初日のセカンドセット。爪と腹を器用に使い分けながらノーピックで弾き語るギブソンの音はまるくやさしく、ティーバックを浸したままのマグカップで喉を潤したのはたった一回だけだったにもかかわらず、リスナーを九十分間魅了し続けたうた声は、ギターの音とほどよくブレンドされて軽やかに耳と身体に届いてきた。なんだろう、この多幸感。予期せぬだれかと出会ったときの期待感、長く続いた苦しみから逃れたあとの解放感、懐かしいなにかを思い出して包まれる郷愁感。とにかくずっと笑顔だったと思う。
彼の音楽をジャンルでうまく説明するための知識を持ち合わせていないのだが、ブルース、カントリー、ロカビリー、果てはサーフミュージックまでも、すべてをひっくるめて、あえて言うなら、ニック・ロウ、彼そのものがジャンルのひとつだ。ライブでは、新旧のオリジナル楽曲をベースにして、他者をプロデュースしたときの楽曲もいくつか披露してくれた。アンコールのセットはその場で決めたように見えたのだが、最後の最後にそれかよ。笑いながら泣いた。
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ギターうまいなあ。あんなふうに弾き語れる日本のミュージシャンにはまだ出会えていない。