大きな宇宙船とその艦長。
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上原さんのことしの日本ツアーの最終日へ。丸の内3丁目。
アダム(tp)は8分、上原さん(p)は10分、そしてジーン(ds)は12分。きょうはこれを聴きにきた。後半の二曲目。
ジャズのライブのソロまわしは非常識に長くなりがちだが、今回の上原さんはそのさらにもっと上を目指す。ここまで長いと、ちょっと気を抜くだけで、聴こえてくる音とともに中だるみ、間延び、退屈、けん怠、眠気などの困難に繰り返し襲われるのだが、それをいかに耐えて凌ぐか、聴くものの根気と集中力、辛抱づよさと信仰心が試される、合計およそ30分の即興ソロまわし。
いっぽうおそらく演奏する側も、客を飽きさせないようにずっと魅力的な音を出しつづけなければならないという試練の30分だったはず。飽きさせないためには同じフレーズは繰り返せない、単調なフレーズも長くはつづけられない、耳の肥えた客にはどこかで聴いたようなフレーズは通用しない、そして時間が経つうちにどんどんネタは尽きていく。かといってカッコ悪いフレーズは自分が許せない。なにより、聴くものの時間を無駄にしたくない。
でもそんな修行のようなソロまわしが明けたときの、バンドアンサンブルの爆発力、瞬発力、音の躍動感、やりきった解放感、生まれる安堵感を、会場じゅうのだれもが期待しながら聴いているという、なんとも至極な30分。まさにこのツアー最大のヤマ場。ジャズだからこそ実現可能なきわめて至福で困難なこの時間をセッティングした上原さん。彼女は神か、悪魔か。いいライブだったなあ。
ことしもいよいよ。でもまだ終わらない。終われない。