大阪日帰り弾丸ツアーふたたび。
//
渋谷・鹿児島おはら祭りの喧騒を素通りして、今日は由薫さんの初ワンマンの初日へ。南堀江3丁目。
ひとりギターをかかえて歌って帰るだけのライブ活動。終演後の物販ブースで対バン相手がファンと交流する様子を横目に見ながらこっそりと静かに帰っていく彼女は、売るものも配るものもないから、と言う。得意の全編英詞の楽曲がリスナーに響かないことへのジレンマ、熱のない拍手、増えないファン、手ごたえを感じられない日々。これを下積みと言わずになんと言う。
それでも彼女は、ライブでは必ず毎回、セットリストに新曲を織り込んでいた。昨日出来上がったばかりの新曲とか、聴かせていいのかわからない新曲とか、自信作かもしれない新曲とか。一曲と言わず二曲だったときも。棒立ちだったステージングも少しずつ動きが追加されていき、わかりづらくひかえめなキメのポーズを見せてくれたり。同じようでいてまったく違うことをやってくれていることに気付いたとき、彼女のライブの楽しみ方にも気づくことに。こじんまりと地味だけれど、回を追うごとに楽しさが増す、そんなライブ。
デビューまでのプロジェクトが動き始めたとき、ようやくライブ会場にマネジャーさんが帯同しはじめた。一般企業ならやり手のエリート社員、公務員なら根っからのキャリア組、美人と素朴さをあわせもつ彼女の働きっぷりを見せつけられたとき、はっきりと気付かされた。小さなライブ会場の灯りと若いエキスによなよな群がってくる、サイン帳にサインを書いてもらうことに必死だったり、ツーショットのチェキをアルバムすることに執念を燃やしたり、顔を覚えてもらえるなら出待ちで脚を棒にすることも厭わないような、健全なSSWおじさんたちは、彼らのプロジェクトには含まれていない。彼らが見据えているその先は、ここじゃないもっとマスな世界。
そこからはあれよあれよだ。既存のリスナーだけでなく、本人さえもそっちのけのスピード感でプロジェクトは進行していく。事務所レーベルのCDリリースをとっかかりに、メディアへのキャンペーンが始まり、映画の主題歌、ドラマのタイアップをうまくブレークさせたかと思えば、一足飛びで初のワンマン、しかもツアーでの開催。活動範囲も下北沢・渋谷エリアからずっと全国へと広がり、対バンは減りフェスやメディア主催のイベントへの参加が増えた。
それにあわせて、ライブの中身も次第に変化していく。レーベル側の意向なのか、新曲の初披露はライブではなくリリースが優先されるようになったけれど、そのぶん楽曲の幅が広がって、少なかったアップテンポなライブで聴きたいと思わせる楽曲も増えていった。ステージには名うてのミュージシャンがサポートにつくようになり、彼らのアイデアと工夫を惜しみなく取り入れることでリスナーへの問いかけと提案も増え、同じ楽曲がライブを追うごとに変化していくという現象を見せてくれるようになる。ライブがライブらしくなってきた。
そしていよいよ今日、ドラムスとキーボードが加わった初のフルバンド、初のワンマン、初のツアー。初めてづくしの初日。これだよこれ。この音、この由薫さん。三年間ずっとこれを待っていた。あとはもう思いぞんぶん楽しむだけだ。
ツアーの感想をネタバレなしで書くのはほんとツライ。