月に一度はブルーノートへ行こう!
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今日は中島美嘉さんの初のブルーノート公演へ。知っている楽曲はたったの二曲。完璧なアウェイ。まわりを生粋のファンにかこまれて、なんだか申し訳ない居心地で過ごす九十分間。南青山6丁目。
スレーブレスの真っ赤なワンピースドレスには腰の近くまで深いスリットが開いていて、動くたびにチラチラ見える足先から今日の彼女は裸足だということを知る。どうやらヤル気満々らしい。ただしその動きはときに大げさで、たいそう芝居じみていた。これが中島さんの客席との距離の取りかたか。さすがメジャーでひとヤマ当てただけのことはある。こういうとき一般リスナーにとってその距離は、ものすごく遠いものになる。どれだけステージに近い席でも。
アメージング・グレースにしてもローズにしても、まともに歌えもしない楽曲をどうしてわざわざ選んだのか。華奢な見た目からは想像もできない豊富な声量と倍音ボイスで、ことさら難しい楽曲をいとも簡単に歌いあげ、驚くほどの感動と歓喜を聴くものに与える稀有な女性シンガー、という最初の成功で定着させた良いイメージを、一気に悪いほうへ変えるような選曲におどろいた。まるで声に張りのあった以前の自分に戦いを挑むようなステージング。これはツラい。勝てないのはわかっているはずなのに。なぜいま出せる声と持てる技術と技量で素直に歌わないのか。強めのリバーブで聴く耳を誤魔化したり、唐突なアクションで見る目を逸らしたり、どれも小手先のフェイクじゃねえか。と思っていたら、佳境の一曲でなぜかそれがパタリと止んだ。これが今日のベストアクト。感動こそなかったけれど、歌の上手いシンガーの生声を間近で聴いたときに感じる、オオっと仰け反ってしまうようなあの感触。でもこれだけ。次に歌ってくれた「雪の華」は曲そのものにパワーのある良曲だけれど、いまの彼女にはもっとも難しい楽曲に聴こえた。
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彼女のようにファンの間でイメージが定着した中堅どころのミュージシャンのライブを体験していつも思うのは、ファンは大切だなってこと。促せば手拍子もしてくれるし、キメのタイミングで必ず拍手をしてくれる。顔を向けると手を振って反応してくれるし、最後はスタンディングで見送ってもくれる。終わったあとは感動と称賛をネットや口コミで広めてさえしてくれる。そしてなにより、またライブに来てくれる。ほんと大切。でもなあ、どれだけファンに忖度しても、ここまで当初のイメージに固執してしまうと、減ることはあっても増えることはないんだよ、ファンなんて。