LUCID NOTE LUCID NOTE | Music show reports and Play stage reports

こまつ座 第136回公演「父と暮らせば」 – 初日

LUCID NOTE SHIBUYA

あれから三年。

//

こまつ座の不定期ループ・リバイバル公演へ。千駄ヶ谷5丁目。

イスラエル軍とパレスチナ武装勢力の停戦が発効した日に観た「父と暮らせば」は、ものたりないドキュメンタリーとして耳目に届いてきた。

山﨑さんも伊勢さんも「悲しみ」で舞台をいっぱいにしてくれるのだが、現実世界では悲しみだけではなく「怒り」もある。実際は怒りが先に蔓延し、連続し、連鎖し、拡大する。いまの中東がそうだ。悲しみが世の中にあふれるのは、たいていは怒りが収まったあとだ。徹底的な暴力とその後のオキュパイドによって、当時のほとんどの日本人はその怒りを無理矢理にあきらめさせられた。その後代の日本人はそれを忘れようと努力した。そのまた後代のいまの日本人はそれをなかったことにすることに成功した。それもあっさりと。あったはずの怒りをなかったことにした結果、その後に訪れたはずの悲しみもなかったことになった。

今日の芝居は欠損したその悲しみへの補填だ。ただしそこに怒りは含まれていない。したがって当時のぜんぶを語っていないことをうすうす知りながら観ることになる。あの日の被爆体験とその後の被爆者の悲しみを想像させるには充分だが、それは想像であって実感ではない。ものたりないさを感じたのはそういうところか。この手の芝居で欲しいのは追体験なのだから。

//

伊勢佳世さんの芝居は山崎さんと対峙してもまったく引けを取らないくらいにパワーアップしてた。二十三歳の役柄だから次はないかもしれないけれど、伊勢さんの芝居、また観たいな。